そもそもビジネスにおいて契約書というのはそれまでに重ねてきた交渉の結果を明文化するものですから、内容はすべて前もって口頭で合意されていたはずで、実際のところ何も問題が起こらなければ普段はとくに思い出すこともないでしょう。しかしいったん事が起こればやはり契約書がものをいいます。
以前、「日米間で解釈の食い違いが出てきたので、その問題個所の正確な訳が欲しい」と依頼してこられたお客様がいらっしゃいました。ほんの10行ほどの個所ですが、商品の価格に関わるたいへん重要な部分です。当時、為替の変動が激しく、その変動幅によっては商品の価格はがらりと変わってしまいます。契約書ではそれを見越した上で「為替の変動幅が10%を超える場合にはあらかじめ決められた一定の計算価格を適用する」といったことが盛り込まれていました。これはお気の毒ながら結果としてそのお客様の不利になるような内容だったと思います。なにか勘違いされたのか、あるいはその時の状況からとうてい予測できないトラブルだったのか、それはわかりませんが、英語の契約書では解釈言語はまず間違いなく英語となりますから(venue-裁判地と同様、もちろんこれもちゃんと明文化されています)、この場合は反論もし難かったのではないかと想像いたします。
建築関係などになりますと、これはおそらく日本でも同じなのかもしれませんが、請負契約がそのまま仕様書の形になっていることもよくあります。これには工事内容の詳細や工事資材なども細かく規定され、それに伴うExhibitやSchedule等の証拠書類や一覧表などの添付資料が契約書の一部を構成します。
とにかく契約書というのは大事なものです。けれども、見方を変えればこれはたいへん便利なものかもしれません。契約書を単に形式的なものにせず、互いに譲れないところをそこで明確に規定しておきさえすれば、それによって不要なトラブルを未然に防ぐこともできるのではないでしょうか。
|